マクロ☆スタイル

日常に高倍率マクロ撮影。鉱物標本写真/ルース。猫も撮ります。マクロレンズと産業用の変なレンズが多いです

チャザム・エメラルド

Chatham Emerald

Chatham Company USA
FoV:21mm
D610/bellows/FUJINON-M 1:6.3/63

合成宝石というのは、希少な宝石をなんとか量産したいという思いから生まれたのだと思う。
いわゆる四大宝石である、ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア。これらの石の模造品が多く作られてきた。
いずれも大きな結晶がなく、カットすると光り輝き、硬く、なにより美しい。
伊達に四大といわれていないが、かつてその順位は現在とでは様子が違った。
現代では上記の順番が一般的な評価ではあるけれど、十七世紀にダイヤモンドをカットして磨く技術が花開くまで宝石の価値は、
「ルビー、エメラルド、ダイヤモンド、サファイア」の順であった。
1560年ごろにイタリアでは当時の宝石の値段は、完全なもので1カラットが下記のようであったとされている。

ルビー:800スクーディ
エメラルド:400スクーディ
ダイヤモンド:100スクーディ
サファイア:10スクーディ
※スクーディは19世紀までイタリアで使われていた貨幣

そのせいもあってか、まず人類が完全な合成石を作り出そうとする情熱はルビーに向けられた。ルビーを作り出すことができれば、
同じコランダムであるサファイアも作り出すことができる。
1837年にフランス人のゴーダンが天然によく似たルビーを作り、1902年にやはりフランスの科学者A・ベルヌーイが大きな単結晶を作り出すことに成功して、ルビーの合成はひとまずとどめを刺す。
ルビーの化学的性質、硬度、美しさは大人気で、一日に1トンものルビーが作り出された時代もあったというからすごい産業だ。

エメラルドはそれよりも進歩がゆるやかで神秘的だった。
最初にエメラルドの合成に成功したのはやはり美を愛するフランスで、
1890年に材料を24時間かけて800度まで高め、その温度を保ったまま十五日間熱し続けると小粒のエメラルドが得られる、というものだった。

次に成功を収めたのがドイツの大手染料会社IGで、加工して1カラットのエメラルドと同じ色をした石ができた。けれどもこれは物理的性質が違うとのことで、鑑定は容易だったという。

そして1935年。サンフランシスコのガレージ内で、アメリカの科学者キャロル・F・チャザムが1カラットの合成エメラルドの製造に成功する。
これは当初、天然のエメラルドとまったく同じ組成で鑑定が難しかったが、天然モノとは違う特徴があったので鑑定することができた。
だが、その美しさは上等なコロンビア産のエメラルドに負けないものであった。

Chatham Emerald

このエメラルドはチャザムの名を取って『チャザム・エメラルド』と呼ばれた。
商業生産に移ると、最大で1000カラットを超える巨晶も作られた。

しかし合成ルビーの親ベルヌーイとチャザムとでは大きく違う点があった。
生粋の科学者であったベルヌーイは合成ルビーの製法を秘密にせず、その知識を広く人々に広めていった。
もし、ベルヌーイ法を門外不出にして、商業的に流通を限定していれば、彼は億万長者にもなれただろうけれど、ベルヌーイはパリの科学アカデミーで次々とその方法を開示する。
初めはそれほど効率のよくなかった方法が、さまざまな人々の手によって改良がなされ、ついには一日1トンのルビーが作り出された背景である。

チャザムはこのエメラルドの製法を終生伝えることがなかった。
今ではその物理的特徴からフラックス法と呼ばれる技術であったのだろうといわれているが、真相は明らかにされずじまい。

今でも合成エメラルドを作るチャザム社はあるものの、これが本当にチャザムが作ったエメラルドと同じかどうかはわからない。
だが、その美しさは今も昔も変わらないのではないかとわたしは思う。
同じ合成宝石の中で優劣や真贋をつけるという行為に、なにか不毛な、滑稽なものを感じてしまうくらいだ。

参考:【チャザム社】

Chatham Emerald

緑の宝石の中でもエメラルドは別格扱い。鉱物標本としての美しさも宝石としてもだ。
チャザム・エメラルドのえらいところは、鉱物標本としても宝石としても美しいこと。
さらには光学用品や工業用途では人工ならではは安定した品質が保証されていることだ。

わたしみたいなコレクターにとっては、美しければそれでいい。と思われるかもしれないが、その後ろに物語があるほうが深みを増す。
そういった意味で、チャザムのエメラルドは人工とはいえ味わい深く、また神秘的でもある。

===おまけ===
わたしの持っているチャザムさんは紫外線で真っ赤に蛍光したよ!!

Chatham Emerald(fluorescence)

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