思いもかけず五月六月のお仕事が忙しく、ようやく一息がつけると思ったとき。窓の外がいい天気であった。
気がつけばわたしは三浦半島のへんぴな漁港にいた。バイクに乗って高速を使えば都内から二時間ほどでこんな隠された入り江にやってこられる。
どこかでここの『まるよし食堂』で出す、『ハバノリ定食』がうまいと聞いたのが脳の片隅に残っていたのだ。それだけを頼りに情熱のままにやってきましたまるよし食堂。
スゲーふつう。だがそれがいい。
朝から飲まず食わずだったので、ハバノリ定食+サバの味噌煮をオーダー。一見千円にも満たなさそうな定食であるが、ハバノリは高級品。わたしが普段食べているランチなら三食分くらいの高給定食であることは書き記しておこう。
この手もみしないで乾燥させた茶葉。あるいは乾燥わかめのようなものがハバノリ。
パリパリである。これに醤油をかけ回していただくのが三浦半島の流儀だ。
味は磯の香りそのもの。
いわゆるノリとコンブとワカメを混ぜたかのような海藻の味がギュッと詰め込まれている。これをざっくりと白米に乗せてかっこむのが漁師風。三浦半島までやってきてよかった。
ハバノリ定食だけでも十分茶碗の白米を相手にできる。ひじきの煮物とタコとキュウリの酢の物もあるので、サバ味噌は蛇足だったかもしれない。だが、自家製のサバ味噌は夏前にしてよく油が乗っている。これも主役級のひと皿。わたしがすることは白米のおかわりであった。
心も腹も満たされたので磯をてくてくとはらごなしのお散歩。歩くたびにフナムシがカササと逃げていく。何かよい漂着物でもと思ったが、フナムシだらけだったのでお散歩はすぐにとりやめた。
この漁港に帰ってくると、まず見えるのが『まるよし食堂』。海の男は新鮮な魚介を食べ慣れているため、丘に戻るとお魚よりもハンバーグや唐揚げが食べたくなるという。漁港の食堂でハンバーグ。わたしもその境地にたどり着けることができるのだろうか。
わたしの大嫌いな風力発電が目に入る。怖いのでとっとと帰ることにする。巨大建造物というのがどうも苦手なのです。
さらば『まるよし食堂』。
また次も入り江の見える窓際の席に座って、ハバノリ定食を食べたい。
[↑あのハバノリひと皿まるっと味噌汁に入れて食べたい]