産業用レンズを集めていると、紹介するべきかどうか迷うレンズを抱え込むことがある。わたしにとってはこの、コーワ『プロミナー』の名を関した謎レンズがそれに当たる。
どうして紹介するべきか迷うかというと、レンズの揃いが悪かったり、状態が悪かったり、試写ができなかったり。いろいろだ。このS.G.プロミナーはほぼすべての迷う要素が揃っていて、産業マクロレンズ沼に落ちた年に手に入れたにもかかわらず、これまで防湿庫の肥やしになっていた。
すっかり存在を忘れていたら、ひょっこり5倍の玉が出てきたのですくい上げるこができた。今まで所持していた10/20/50倍と比べると三倍くらい大きく五倍くらい重いので、少しだけ後悔した。だが、低倍率の産業用マクロレンズは貴重なので仕方がない。
そして情報が少ない。手に入れたのは今から7、8年前だけれども、情報がほとんどない。情報をお持ちの方がいましたら、ぜひ教えて下さい。
わたしの所見としては、おそらく産業用の測定器。あるいは投影機に使われたのではないかと思っている。その手のレンズの香りがする。『SHINKO』というのはおそらく『神港精機』のこと。昭和24年創業の神戸の老舗企業。
KOWAという一流光学メーカーが出している『PROMINAR』の銘が刻まれているのだから、ずいぶん値段の張った光学装置に組み込まれていたのだろう。コーワはどちらかというと双眼鏡や望遠鏡といった遠くのものを観察するメーカーというイメージだったので、これのマクロというのは胸が熱くなる。
S.G.という銘についてはよくわからなかった。なぜドットがふたつも? シンプルに考えれば「スペシャルグレード」なのだろうけど、他のシリーズを見たことがない。
ひとまず各倍率の四本の外観を。
↓5x
↓10x
↓20x
↓50x
とくに5倍のレンズがえぐい。大きさ重さも構成枚数も違う。フルマルチコーティングがされていて、コーティングの反射数からして、少なくとも8枚構成なのではないかと予想している。
また後玉の張り出し具合が強く、専用のレンズキャップをしていないとすぐに傷だらけになってしまうだろう。ずいぶん思い切った仕様だ。
試写ができないのには言い訳があって、マウント経がM51/P1と中途半端であったこと。いまだこれに適合するアダプタを非所持ということ。さらに50倍のレンズの前玉が現場酷使でかなり荒れていたということでやる気が出なかった。
そしてこれは懺悔になるのだけれども、各レンズには専用のハーフミラーとアダプタがついている。20倍か50倍かはもう忘れてしまったが、初心者の雑な扱いでミラーを割ってしまい、なんたることかアダプタごと処分してしまったのだ。
そのときはハーフミラーとそれを組込むアダプターがどんなに貴重かわかっていなかった。これを紹介するということは、過去の自分の愚かさを突きつけられているようで、とても気が進まなかった。
昨今の悪疫の中。こりゃあいつ迂闊に逝ってしまうかわからんぞ。という思いが強くなり、中途半端であっても謎レンズこそ積極的に情報を残しておかねば。という気になったのかもしれない。
幸運なことに専用のリアキャップはすべて揃っている。そこまで愚かではなかったと慰めになるが、マニアからの叱責は免れない。
コレクションは一時的に保管しているだけであり、それを損なわず次に繋げることこそマニアでありコレクターの義務であるという考えがある。
わたしはどちらかというと、使ってみて、手に持ったら楽しそうだという意識が先立ち、その意識は薄い。そんな半端なマニアでも過去の所業を悔やむことはあるんだ。
本当ならばこのハーフミラーを四本ぶんすべて集めて、おめでたい門松に見立てたかった。けれども、こうしたアクセサリーはレンズよりも出土が難しい。今生では手に入れられないだろう。この文章を見ているのが誰かはわからないが、前車の覆るは後車の戒め。これを他山の石としていただきたい。心からのお願いだ。
追記:100x のレンズもあるようです。
[プロミナーのいい双眼鏡も欲しい~]