この手のものはペンタックスのパピリオ2で物欲が収まったと思っていた。見え方や操作性にはまったく文句なしであるにもかかわらずポケットに収まるくらいのサイズがいい~ 双眼鏡デカ~い。単眼鏡がほし~い。という思いがムラムラ湧き上がっていた。
パピリオ2はこの値段でいまだ双眼鏡の中では唯一無二のマクロ性能。小型軽量、フォーカスリングも軽快。強いてネガティブなところを挙げるとすれば、反射光などの逆光だとフレアや色ズレがわずかに見えること。そして屋内でミュージアムスコープ代わりにすると、もうすこし視野角が広ければ。ということが上げられた。
ヨドバシなどの量販店でいくつか単眼鏡を覗かせてもらったのだけれども、性能面でパピリオ2に肉薄できるものはないかな。という感触だった。ニコンもオリンパスもビクセンも、それなりのお値段のものを試させてもらったけど気に入らず。パピリオに比べれば圧倒的に小型軽量なのだけれども、比べてしまうとひとみ径が小さく観察しにくい。それだったら双眼の立体視があるぶん…ねえ。という気持ちだった。
Zeissの単眼鏡は4倍のものしか試せなかったのだけれども、見え方はかなりオッとなった。近くのものにもピントが合うし、これはちょっといいのではとなった。しかしひとみ径の小ささのせいか、双眼鏡にはとても敵わないなあと思わされ。
そんなわけで単眼鏡のことはひとまず忘れよう。という思想にたどり着いてしまった。美術館とか気軽なウォッチングにはパピリオ2があるしいいもん。
けれど、ルーペのことを調べていたら世の中には『五藤光学研究所』という光学メーカーがあるのだと聞き及んだ。かつては民生品の望遠鏡も作っていたけれども、今はプラネタリウムをメインに作っているメーカー。古い星屋の皆さまにしてみると「五藤の天体望遠鏡」というのは名門品なのだという。これはそそられた。
10倍ルーペでもないかな~ と調べてみたらなんと創立九十周年記念で単眼鏡を作った。という記事が飛び込んできた。なになに…「設計、レンズやプリズム、部品の加工、組み立て、検査のすべての工程をすべて日本で行うなど、光学性能を始め、利便性や機能の細部にまでこだわって開発した当社オリジナル製品」。そそられる。なんてそそられる…
このとき2018年の12月。自分へのクリスマスプレゼントが決定した。そして今日までいろんなところに持ち歩いて、こりゃあすごいと確信を得るに至ったわけで。
五藤光学研究所 単眼鏡 GT-M518 5x18 スペック
対物レンズ:有効径 18mm
倍率と明るさ:倍率 5倍 明るさ 13.0(射出ひとみ径 3.6mm)
実視界・アイリリーフ:10度(1000mにおける視界 175m) 17.9mm
光学系コーティング:超高透過率マルチコート、プロテクションコート付
合焦距離:∞ からおよそ 0.5mまで
大きさ:幅 36mm x 高さ 41mm x 長さ 104mm
重さ:約150g
付属品:ストラップ、巾着袋、取扱説明書
単眼鏡としてはけっこう大きめ。全体がラバーで覆われていて、ハードに使われることを想定している。目元が円筒形でピントリングと三段式のツイスト式アイレリーフがあり、対物側は四角柱という変わったプロポーション。おそらくは転がり防止のためのデザイン。
操作はピントリングとアイカップのみ。アイカップはこれくらい伸びる。裸眼マンでも眼鏡マンでも使いやすい。
正直無骨ですな。コーティングも防汚コートとおそらくマルチコートがうっすら。ラバーの手触りには高級感はないけど、まあうん。使いやすいんじゃないかなあ。レンズキャップも付属していないし、巾着もなんか取り出しにくいしストラップもピンとこなかったからシリコン製のものにした。
しかし覗いてみるとこりゃすごい! 倍率5倍/視野角10°の広視野モデルということを考えるとすばらしくよく見える。
周辺までクリアーだし18mmのひとみ径はわたしみたいなぶきっちょが手早くラフに扱っても視界が逃げていかない。周辺部の歪曲収差についても言うことなし。色のにじみもなし。無骨ラバーも使ってみるとグリップがじつにいい。これはちょっと落としたくらいではビクともしないだろうなあ。
ラバーの奥深くにあるから向いて観察。というわけにはいかないけども、工作精度もかなりのもの。振ってどこかがグラつくということもないし、ヘリコイドは適度なトルクがあって滑らか。アイカップのグラつきもない。ストラップ取り付け部分は全周が動くので、ストラップを手首に通してピント合わせしても手首が持っていかれる、という不細工なことはなし。ルーペでレンズエレメントの中を見たけどしっかりとコバが塗ってあって、鏡筒内面は宇宙のように真っ暗だ。
最も特筆すべきはヘリコイドの精度。GT-M518の最短距離はレンズの先から50cmまでと近い、草木や昆虫や鉱物に寄って観察できる。だいたい50cmの距離から5cmのものがまるまる観察できる。その50cmの最短から無限遠まで。ピントリングをどれだけグリグリ回せばいいかというと、これがなんと一周。360°で近目から無限遠までを一気にフォーカスできる。なにこの性能。
このヘリコイドは使いやすい。適度なトルクがあるから、合わせたい場所にバシッとピントが決まる。これくらいの倍率の単眼鏡の中には三回転くらいピントリングを回さないと最短⇔無限遠を行き来できないものがあったりする。この「一回転」で済ませられるのはじつに使いいい。
すべての単眼鏡どころかまだ数本しか体験していないので予断だけれども、この視野角の単眼鏡の中ではベストの一本じゃなかろうか。マクロ観察にも使えるし、これは生涯使える一本となる予感。
褒めすぎた気がするので、いちおうネガティブなことも書きたい。みっつばかりある。
ひとつはストラップが長すぎて使いにくい。ここらは自分の好きなものを使えって言われている気がするので、わたしは手首に通せるシリコンラバーのストラップを採用。これが使いやすいんですよ…
ひとつはポーチ。これだけいいものなので、ジャストフィットする専用ケース。あるいは使い勝手のいいレンズキャップが求められる。わたしは100均のメガネケースに入れてカバンに入れて持ち歩いている。素のまま持ち歩く人にはどうでもいいかもしれないけど、クロス代わりになるという布ポーチの存在は微妙。
最後はヘリコイド部分。フォーカスのすべてを一周でまかなえる偉大なヘリコイドだけれども、伸び縮みする部分がむき出してグリスが見える。ラフに使ってここがホコリを吸い込み、砂の一粒でも噛んだらどうなってしまうんだろう。という恐怖がある。何かしら防御できる機構があれば完璧だった。あるいはこのまま使ってもチリひとつ侵入させない工作精度の自信があるのかもだけれども、チキンなわたしには試すことができない。
単眼鏡としてはかなり高額な部類だけれども、双眼鏡や撮影レンズとして考えると安い。立体視が必要ないのであれば、パピリオよりも軽いこちらを観察の友にするのは十分ありだと思う。
2016年発売で90周年モデルではあるものの、地味に売れていようでAmazonでもまだ買える。レビューも好意的なものばかりだ。わたしも超オススメ。
[双眼も単眼も近くのものが見られるスペックがいいよネ~]