老蛙。LAOWA(Venus Optics)は中国の光学メーカーで、2016年あたりから超広角やマクロレンズで個性的なレンズを出し続け、中国発のレンズブランドとしては最も注目されているメーカーだと思っている。少なくともわたしは、特殊なマクロレンズを出していたので注目してきた。
創業者であり社長である李大勇は日本のタムロンで20年間光学デザイナーとして勤めた人物。社長が光学畑出身だからであろうか。じつにマニアの心をくすぐるラインナップを揃えている。この『LAOWA 25mm F2.8 ULTRA MACRO 2.5-5X』はまさにくすぐられた結果のお買い上げだといえる。
まず構成図がしぶい。
分厚い8枚6群のエレメントは対物レンズのそれを思わせる。けれども3グループと4グループのレンズ表記にやや首を傾げる感じの線がある。とくにG3の二枚貼り合わせは三枚に見えたりする。なんだろこれ。
鏡筒はフルメタル。「LAOWA」のロゴはなぜかプリントだが、その他絞り値や倍率、焦点距離は刻印に白流し。今の日本メーカーではなかなかやらない仕事だ。しかもフロントキャップまでバヨネットの金属キャップ。全長10cmにも満たない小さなレンズだけれども、じつに質感がいい。
絞りは8枚の円形絞り。ただし円形なのはf/4まで。下の写真はf/5.6まで絞ったもの。開放はf/2.8だけれども、鏡筒内にうっすら羽根が見える。なぜかそこから0.3mmぐらい絞りを開放でき、謎の真の開放を使うことができる。だがこれはおそらくバグだろう。
大事なことを書き忘れたけれど、このレンズはマクロ専用レンズ。無限遠どころか等倍も撮れない。しかも倍率は2.5~5倍。35mmフルフレームでいえば、長辺7mm~16mmくらいの幅しか撮ることができない。
しかしこれは高倍率マクロ者であればすごいことなんだ!! ベローズや中間リングを使わずレンズ単体でこの倍率を撮れる!! これは本当に珍しいことなので強調しておく。
かつてミノルタが『MINOLTA AF MACRO ZOOM 3x-1x F1.7-2.8』を。キヤノンが『MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト』をラインナップしていたくらいで、レンズ単体で高倍率をズームして撮れるレンズというのはウルトラレアなのだ!!!!!
ちょっと熱くなったので、ズームしたときの鏡筒の伸び具合を紹介しよう。
↓2.5x(ワーキングティスタンス23.4mm)
↓5x(ワーキングティスタンス17.3mm)
弱点というには酷だけれども、このレンズにはピントリングがない。倍率変動のヘリコイドと共用だ。ズームマイクロニッコールのように、ズームしてピントが変動しないなどという離れ業もない。なので被写体の構図を決めるときはカメラとレンズを動かしての一苦労がある。
だが、それでもレンズ交換をしなくていいズームマクロは便利なのだ。少なくともベローズのように重くなって取り回しが著しく制限されることがない。これは野外撮影や出張撮影においてたいへん強いアドバンテージになりえる。
別売りのオプションになるが、レンズ先端にバヨネット装着するLEDリングライトもある。
残念なことに給電は外部のモバイルバッテリーからUSBケーブルを介しての発光となる。しかも電源のON/OFFはなくケーブルを繋げると突然発光する。しかもすごく熱く発熱する。カメラから給電できる仕組みだったら便利だったろうなあ。
純正リングライトに拘りたい人でなければ、とくに選択する必要はないかなという所感を抱きましたね。
さらに別売りオプションで純正三脚座があるんですが、こちらは手に入れておきたい。
こんなシンプルで頼りない感じの三脚座ではあるが、光軸を変えずにヨコ構図/タテ構図を切り替えられるメリットは大きい。今からこのレンズを手に入れる気がある方は、万難排してこの三脚も確保することを強く押しておく。
ともすると純正アクセサリーはレンズそのものより手に入りにくくなる。できればレンズと一緒に手に入れるほうがいい。三脚座プレートにはアルカスイス互換の溝もあってお得だ。手に入れられるうちに手に入れておいたほうが絶対にいい。
というかもう公式でも在庫払拭している。このペラペラのプレートつきリングが現在アマゾンで1万円近くの値になってしまっている。
このレンズが発売された2018年。初回出荷特典で三脚座が同梱されていた。レンズつきでその出物を狙ったほうがいい。マウントが違ってもマニュアルレンズ。レンズ交換式ミラーレスカメラならマウントアダプターを使っての運用を考えるのも賢い手段だといえる。
ところで実写についてはかなりいい。
ここまで語りまくって肝心の描写がダメ。というのもさすがにない。どの倍率でも引き伸ばしレンズやマクロレンズのリバースとは一味違ったシャープさと潤みがある。色収差はとても少ない。積極的に開放で使っていけるクオリティなので、被写体の立体具合や深度合成の積み具合によって絞りを使っていく感じになる。
フルフレームでこの倍率になると、対物レンズも周辺が荒れがちになる。このレンズもやや周辺が荒れる印象がある。とはいえ平面物を撮るのでなければ問題にならないレベルであることは保証できる。高倍率で画面の隅までプレーンに撮りたいのであれば、産業用の厳密なマクロレンズしか手段はない。
日本のマクロレンズプロダクトびいきのわたしも、LAOWAのこのレンズには脱帽せざるをえない。なるべく多くの人々を広く深くマクロ沼に落としたいわたしも、このレンズが一本あれば2.5~5倍はカバーできてお得。と断ずる覚悟がある。
惜しむらくはこうしたレンズにこそ日本のレンズメーカーに出してもらいたかった。というくらいだ。中国の光学プロダクトの進歩も目覚ましい。うかうかしていられない。わたしはいちユーザーなのでうかうかしまくりなんですけどね。
[↑老蛙っていう漢名もイイよね~]