かつて、コニカというメーカーがあった。正確にいうと今でもミノルタと合併し「コニカミノルタ」となって生きてはいるのだけれども、カメラメーカーとしてはミノルタとともにすでに撤退している。
さらにいうとコニカが出していたレンズブランドとして「HEXANON(ヘキサノン)」という名前がある。かつて光学レンズには会社のプライドを乗せたブランドネームをつけるのが通例だった。ニコンであれば「NIKKOR」。オリンパスであれば「Zuiko」。フジであれば「FUJINON」。ペンタックスであれば「TAKUMAR」。ミノルタであれば「ROKKOR」。そしてコニカの「HEXANON」。残念ながらこの雅号は今ではあまりメジャーな慣例ではなくなってしまった。
ブランドネームは産業用レンズもまた同様で、写真レンズと同じくブランドネームを号する。コニカもそうした気概を持った会社であったことを、これらのレンズは物語っている。
・KONIKA HEXANON GR2 150mm F9
・KONIKA HEXANON GR2 210mm F9
・KONIKA HEXANON GR2 260mm F9
・KONIKA HEXANON GR2 300mm F9
わたしが現在のところ所持するコニカの産業用レンズは上記四本。
これに比較的明るく焦点域が短い、
・KONIKA HEXANON TR 135mm F4.5
もコニカの産業用レンズファミリーといっていいだろう。
絞りを動かすための円盤状の袴がとってもキュートな働くレンズ。つくば科学万博のマスコットキャラクター。コスモ星丸くんとよく似ている。まったく適当で責任のない決めつけだけれども、このレンズが活躍したのもきっと1985年あたりなのだと信仰している。
ニコン以外の産業用レンズに当てはまることであるが、このレンズに関しても一次資料が皆無。それなりに数があるようだけれども、何に使われていたのかはよくわからない。
135~210mmは対象型オルソメターの4群6枚構成。260mmと300mmは絞り直前の両側にさらに薄い凸レンズが入って4群8枚――だと思う。260mmは曇っていたので分解してレンズを清掃したところ、4群8枚構成だったので驚いた。300mmを手に入れたのはずいぶん前で、これは分解しなかった記憶がある。しかしレンズの反射面から見るに、260mmと同じだろう。
GRⅡとTRの意味も不明だ。Ⅱということは前段に無印のⅠがあるのが普通だと思うが、わたしが観測するこの十年少々、無印のGRを見たことがないのだ。
なお、GRⅡの絞りにはクリックがなく、TRには一段ごとにクリックがある。すべてに共通する特徴として、フロントスレッドがないことが挙げられる。
出自がわからないというのはマニアやコレクターからすると座りの悪い状態ではあるけれど、佇まいのいいレンズであればそれもまた魅力のひとつ。そう、作りはとてもいいのだ。金属鏡筒。シャープでありながら面取りに気遣った加工。文字はプリントではなく彫り込みに塗料流し。鉛のようなレンズのぬらっとした輝き。産業用レンズとしての用具の美がこのヘキサノンにはある。
こうしたレンズの実写を語るのはともすれば野暮になる。写真用のオールドレンズとは違った、実直な写りであることは撮影前からわかっていた。それでもあえて作例を少しだけ流しちゃう。台風が近づいてくる八月の曇天の中、カジュアルに産業用レンズを扱うと気分だけは高度成長期だ。
上記写真は「KONIKA HEXANON TR 135mm F4.5」とニコンのミラーレスカメラ「Z5」による。すべて絞り開放。RAWからjpgに現像しただけ。
嗚呼、コニカのレンズ交換式デジタルカメラにマウントできないことだけが無念だ。
これといってコニカに思い入れがあるのかとえば否なのだけれども、多くのメーカーが切磋琢磨していく姿が見られないのは誰だって寂しい。
メーカーが消えても統合してもカメラやレンズは残る。生き証人だ。運がよければこうして写真も撮れる。レンズは不死ではないが不老だ。長い旅で少し傷ついてはいるが、かつての若い姿のまま今に伝わり、なんなら撮られた写真は昔以上の精彩さがあるかもしれない。産業用の任を解かれた今、こうして猫ちゃんや町の風景や草花を穏やかに記録している。
ヘキサノン、というレンズがあった。そしてその名を関した産業用レンズもあった。
ゆるく記憶に留め、たまに思い出そう。
[↑キヤノンーッ!! なぜセレナーの名と観音のロゴを捨てたーッッッ!!]