2023年の春ごろ。天啓を受けてわたしはこのレンズを手に入れた。しかし身内の不幸と仕事の繁忙が重なり、いじくり回すことが一向に叶わず時間が過ぎていった。
レンズは基本使えればよし。と考えるわたしにはもったいないくらいの保存状態で、コレクターレベルといっていい。レンズの状態はもちろん最高。外箱、前後キャップ。放送用ビニールにニコンシリカゲル。そしてニコン・インダストリアルレンズではお決まりの検査合格証。verヒラオカードまでついていた。この時代の方々は皆達者な筆記体をお書きになる。
レンズ構成は6群8枚。ダブルガウス、もしくはプラナータイプ。マウントはM39と一見使いやすそうだが、産業用レンズあるあるでバックフォーカスが極端に短い。
昭和の民生用カメラではこれで無限遠を出すことは難しく、平成のデジタルカメラも気軽に遊ぶにはハードルが高い。しかし令和の今であればニコンZがある。Z→M39に変換してその間に薄型ヘリコイドをつければ運用は容易い。
天啓であり福音であり神託を受けてお迎えしたレンズの試写といえば神域と決まっている。わたしは朝方に雪がちらつく寒い冬の日に、COM-NIKKORをつけたZ5を持って荒川区の『尾久八幡神社』に詣でる。
なお、このレンズはイメージサークルが狭く。Z5をAPS-Cにクロップして撮っている。それでも四隅が完全にケラレているのはあらかじめご承知の上、御覧ください。おそらくフォーサーズくらい。1インチセンサーであればジャストフィットではないかと。
また、作例はすべて絞り開放。RAWで撮ってjpg変換のみでお送りしております。
初手からこれは厳しい。そもそもCOM-NIKKORは用途としてマクロ専門であり、無限遠を考えられていない設計になっている。しかしあえてこれを絞り開放で撮ることに「はたらくレンズ」が、ゆるい「あそぶレンズ」になると思って御覧くださいまし。
無限遠。といっても100mほどの距離でバチピンであっても周囲はバチっとしない。しかしFlickrの元データを拡大して見ていただきたい。中央部の芯ある解像をとりまくふんわり感を。これは、遊べるレンズだ。
四隅のケラレも見慣れるとこういうものと認識してくる。そして10mほどまで近づいてくると周辺部も破綻は穏やかになってくるのがわかる。
これくらいまで寄ってみるとぐんぐん解像力が増してくる。設計者はこれをブラウン管の画面を撮るのに使うためだっていってんだろ。という声は置いておく。設計者の意図しない面白を楽しむのがいなせな産業用レンズマニアの心意気。
薄型ヘリコイドを運用している都合で、最短撮影距離はこれくらいになってしまう。このレンズ本来の解像を見たければ、ベローズとそれに見合った被写体を用意しよう。ゆるゆるスナッピーと厳密なマクロマニアは相反するところにあり、同じ時間軸には存在し得ないのだ。
ゆるいねえ…
四隅のケラレをカバーするような感じで撮ると雰囲気が増すねえ…
逆光も試してみよう。あえてゴーストやフレアが出る最適な角度を求めてパシャコン。
このレンズには日の丸構図がしっくり。猫様もご納得のご様子。
夜であれば四隅のケラレもまったく気にならないシチュエーションがあちこちに。
イルミネーションを纏った木を通して遠く輝く星に狙いを。
曜変天目のような中央前ボケは画面端に届くとサジタルコマフレアの弾幕へと変化。
もうピントなんて合わせなくてもいいんじゃないかな。
吸い込まれそう。
限りなくゆるく撮影。
試写終了。素数焦点距離レンズは割り切らない撮影がいい。という悟りを得た。
残り少ない2024年をCOM-NIKKORとゆるく過ごしていこう。
[今はいろんなアダプターやリングが手に入るのでたいへんレンズ遊び捗る~]
↓今回使ったアダプターとヘリコイドの同等品↓





















